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最高裁判所大法廷 昭和22年(れ)84号 判決

主文

原判決を破毀して本件を廣島高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人三浦強一上告趣意第二點は「原判決は證人矢野スマ子に對する豫審訊問調書を罪證に供せられてある。しかし右證人の調書については、原審昭和二十二年六月二十四日の公判期日に於て辯護人は供述者たる矢野スマ子の訊問を請求したのであるが却下せられた。(その次の公判期日に於て訊問請求をしなかったのは、既に却下せられたのであり爾後事情に些の變化を認められないからである。)この供述者を訊問しないとする裁判所の理由は「必要なきものと認め」(昭和二十二年六月二十四日公判調書記載)たためであって、訊問の困難なためではない。刑事訴訟法應急措置法律は訊問が困難でない限り、訊問の機會を與えなければ、これを被告人の不利益な罪證に供してはならないという趣旨であるから原審の右措置は採證法則の違反といはねばならない。被告人の自白で全判示事実が認め得ても右調書の記載を綜合考覈の資料とした以上右調書の採證が原判決破毀の原由であることは論を俟たないと思料する。」というのである。

原判決は、所論のように本件の事実を認定するに當り、矢野マス子に對する豫審訊問調書を證據として採っている。しかるに、本件記録によれば原審に於て辯護人は、右供述者矢野マス子を證人として訊問の申請をしているにかかわらず、必要なしとして却下し、供述者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えないで、前記訊問調書を證據として採ったことは明かである。

憲法第三十七條第二項によれば、被告人は、すべての證人に對して審問する機會を十分に與えられるのである。刑訴應急措置法第十二條はこの憲法の趣旨にそった新しい規定であって、事実審は厳格にこの規定を守らなければならないのである。しかるに原審はこの規定に違反したのであるから論旨はまことに理由があり、原判決は破毀さるべきものである。

仍て他の論旨に對する説明を省略し、裁判所法第十條第一號刑事訴訟法第四百四十七條第四百四十八條ノ二第一項により主文のように判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 三淵忠彦 裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 庄野理一 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎)

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